松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



僕の作った和菓子を君に捧ぐ

仲良しだった幼馴染が亡くなってちょうど丸一年になります。

先日、幼馴染のお母様にお願いしてご自宅の仏壇に手を合わせてきたところです。

昨日お邪魔したばかりのような気でいましたが、がらんとして片付いた彼の部屋に身を置くと、彼がいなくなってしまったのだ。やはり彼はもうここにはいないのだと、再びなんとも言えない虚無感や喪失感に襲われました。

お母様と彼の昔話をたくさんお話しましたが、最後にお母様が仰った言葉が私にはとても印象的で深く胸に刻みこまれました。

「同級生みんなで会った時に息子の事を話題にしてくれたら嬉しいです。息子を話題にしてお話してくれる事で息子がまだ忘れられていないのだとそう思えるから。そうしてくれる事で天国の息子も喜ぶと思います」と。

決して忘れていないつもりではいましたが、彼が亡くなっていつものように頻繁に会っていたものが、今は本人にはどうやっても会う事ができません。そうしているうちに、知らないうちにいつも心に留めて置くはずの彼が次第に薄れていく感覚を覚えた事も事実です。

とても申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
ごめん。

こんな事もあり、私は彼との思い出を和菓子で表現する事にしました。



彼が亡くなる少し前、彼を連れ立って旅行へ出かけました。その時、私はどうしても自分が今まで見た最高の星空であった富士山五合目からの夜空を見せたくて彼を連れて行きました。

澄んだ空気。夜空にきらめく煌びやかな星々を一緒に長い間眺めました。たいそう喜んでくれ、心がお互いに通じ合ったのが彼にも自分にもわかり、とても幸せな時間だった事を思い出します。

自動車の窓から望む星空を外郎製の生菓子で表現しています。星々たちは金箔と銀箔であしらっています。



この和菓子、君の事を一生懸命想って作ったんだ。ごめんな。
この先、また会いましょう。必ずね。その時はまた今までと同じようにバカな話して思いっきり笑いましょう。

自分が思い描いたものをそのまま作品へと繋げられる仕事に就いている私はとても幸せだとあらためて思いました。

私は幸せ者です。

幼馴染のための生菓子です。

今日が個人を対象に和菓子を作った初めての記念日です。