松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



咲き分け

本日は「咲き分け」をご紹介いたします。

薄紅色と乳白色にぱっちりと分けて備中白小豆のこしあんを包みました。



外郎製の蒸し菓子です。

外郎製の生地のとてもいいところは、何も着色していなくても自然にやわらかな乳白色になるところです。

写真のようにたとえ紅色を刺しても、優しい色合いの薄紅色に仕上がります。

これは作り手である私の技量などとは全く関係なく、この生菓子の配合の恩恵であります。

表題の「咲き分け」は咲き分ける花の事を指します。

一本の樹木から2色の花を咲かせる「咲き分け」。聞くところによると時に4色を咲き分ける樹木などがあるそうです。

代表するものに梅や桃やツツジ、サツキなどがあります。

咲き分ける遺伝子的メカニズムは、私には到底わかりません。私と同じように昔の人々はこの咲き分ける花を見た時には大きな驚きと感動を覚えた事でしょう。

ぷろぺら



軽羹製の蒸し菓子を今年もお店に並べました。

中は備中白小豆の粒あん。薄紅色に染めてあります。

三角形の和菓子って珍しいと思います。

よく見るとプロペラのようです。

プロペラと書いたことで、もみじの事を思い出したので話は逸れてしまいますが書かせて下さい。

目にも優しい黄緑色の柔らかな葉をもみじは春先の暖かくなるころ、枝いっぱいに広げます。

葉に続いてもみじは小さな可愛い赤い色の花を咲かせます。そして写真のようなプロペラのような竹コプターのような種子をつけます。



皆さまはこの竹コプターのような種子が風に吹かれて飛ぶ姿を見られた事はありますでしょうか。

自然のものは色や形状には必ずと言っていいほど理由があります。

種子をつけた親木から出来るだけ遠くに根をつけたいという事から、風に乗って飛びやすいようになっていったのだと容易に推測されます。

もみじが一年で一番美しい頃(私は秋の紅葉の時期よりも断然この春のもみじが美しいと勝手に思っています)はもうすぐそこまでやってきています。

いまかいまかと今から私は待ち遠しくてしょうがありません。

春の香り

春には春の、夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の香りというものがあります。

嗅覚を働かせて大きく息を吸ってみると、その季節を存分に感じることができます。

それぞれの季節にはその季節にしかない、頭の中に私たちのDNAの中に、しっかりと組み込まれた匂いという記憶があるのです。

想像してみましょう。

夏は海。海のなんとも言えない心安らぐ匂いがあります。カブトムシやクワガタの樹液のような甘酸っぱい匂いも、西瓜の青々としたみずみずしい匂いもあります。カブトムシやクワガタなんて随分長く手に取った事がありませんが、その匂いの記憶が今でも鮮明に浮かび上がります。また、同時に少年の頃の自分を思い出すヒントともなるのです。

秋は枯葉が覆う黄金の絨毯の上で嗅いだ森の少し澄んだ匂いが私はお好き。蒸し栗の匂いも松茸の匂いも食欲をそそる匂いであります。

枕草子のように冬は早朝がよろしいようで、とても寒い朝には澄み切った空気が心まで綺麗にしてくれます。匂いが無いようですがこの鼻から吸う空気を鮮明に覚えているのも、やはり嗅覚がそうさせていることと考えています。

春はどうでしょう。菜花の形容しがたい独特の匂いが好きですし、つくしの佃煮のほろ苦く優しい甘さのあの香りも見逃せないものがあります。

和菓子の世界では一年で香りが一番素晴らしいのは春ではないでしょうか。

よもぎ、櫻葉。どちらも他の季節では味わう事ができない春だけの匂い、香りであります。

それぞれの季節にマッチした匂い、香り。



旬のものとはこういったものの事を言うのです。