松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



思い出深き唐衣

毎年この頃になりますと唐衣という生菓子をつくります。



この生菓子、カキツバタを模したものとなっておりますが、銘としましては唐衣と名付けております。

どうして中国、唐の着物の名前を付けたのでしょう?

それには深い意味合いがあります。それは在原業平が詠んだ句に由来するものです。

在原業平は友人と連れ立って遠く愛知県は知立市まで赴きました。その際に咲いていたカキツバタの近くでこの句を詠みました。

唐衣

着つつなれにし

つましあれば

はるばる来ぬる

旅をしぞ思ふ

意味は、毎日のように着て馴染んだ唐衣のように、当然のように毎日隣にいてくれる妻のことを思う。はるばる遠くへ来てしまったものだなぁ。

そんな意味合いです。妻の事を詠んだものですが、この句の一行ずつのあたまを一文字ずつ拾いますと、かきつはた。そうなります。

この句を詠んだ季節を暗に示したかったのでしょう。

深い意味合いがあり、この句を後世まで残す名句へと昇華させました。

長くなりましたが、よって唐衣はカキツバタを指すものとなったのです。

この唐衣、京都の修行時代にご主人から幾度となく教え込まれた思い出深き和菓子です。

たまたまこの唐衣を長く担当していたため、余計に思い入れがあるものであります。

在原業平が妻を思ったように、私はこの和菓子を手掛ける頃になると、京都時代を懐かしく思います。

五月は私にとって思い出深い季節です。