松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



おべんとうのおはなし

映画「461個のおべんとう」をずっと観たかったのですが、やっとのことで観られました。











離婚を経て父子家庭となった父子の物語です。




高校入学時から卒業まで息子との約束を通し、一日も欠かす事なくお弁当をつくり続けた父とそれに反発しつつも揺れ動く息子の心をうまくコミカルタッチと言いますか、観客を不幸に感じさせることなく上手につくり上げています。




環境はこの映画とは全く違いますが、私も片親になってから娘三人のお弁当を一日も欠かす事なく6年間つくり続けました。




最初は「意地」だけでつくり始めました。




恥ずかしくない家族でありたい、両親に認められたい、娘たちに認められたい、世間に「あそこ、お母さんいなくなって可哀想だねぇ」などと絶対に言われたくなどない。




そんな「なにくそ魂」だけでつくり始めたのです。




しかし、どうでしょう。毎日取り組んでいくうちにそれが喜びに変わり、楽しみに変わり、幸せへと昇華していったのです。




映画を観進めていくうちに、どんどんあの時のお弁当づくりの思い出が蘇ってきて涙が止まらなくなりました。




歳をとるといかんです。涙腺がべらぼうに弱くなっています。




「きっとうまくいく」




それがこの映画の父子の合言葉でしたが、私たち父娘の決まったコンセプトや合言葉などは無かったように記憶していますが、ただ




「今日も一日元気で出かけて、元気で帰ってこような。」




そう送り出してきました。




また、ここで書くのは非常に恥ずかしい話ですが、




「パパはおまえたちの事が世界一大好き。それはいつも忘れちゃいかんぞ。」




これは、片親になってから現在まで一日も欠かす事なく、今でも変わらず娘たちに毎日言い続けている言葉です。




娘たちは「ああ、今日もまた言ってら!」と思っているかもしれませんが、私にとってはとても大切な毎日のルーティンなのです。




私の6年に渡るお弁当づくりですが、大変でなかったと言えば嘘になります。




冷凍食品を一つでも入れるのが嫌だった私は、全てのおかずを自分で用意しないと気が済みません。




一から十まで準備して仕上げようとすると、やはり時間がかかるものです。




仕事前に起床し、仕上げまで終わらせようと思うと睡眠時間も随分削られてしまう事もたくさんありました。




しかし、娘たちが空のお弁当箱を持って帰ってきて




「パパ、今日も美味しかった。友達にも食べさせてあげたよ。ありがとう!」




そう言ってくれる事が自分に対しての一番のご褒美だったのです。




そのご褒美が毎日あったからこそ続けてこられたのだと思います。




三女が高3最後のお弁当の時。この時の私の感情はどうだったのか思い返してみますと、ホッとした気持ち60%寂しい気持ち40%。こんなところでしょうか。




とにかくやり遂げたという達成感とやはり自分自身を労う気持ちが大きかったです。




このお弁当づくりは世の中のお父さん全てが経験できる事ではないと思います。




今となっては、この素晴らしい経験は私自身を大きく成長させてくれたと感じています。




私がつくるお弁当には「忍耐」「愛情」「慈しみ」「笑顔」「眠気」など色々なスパイスが詰まっていました。




娘たちにお弁当の話を今してみると、どんな答えが返ってくるのでしょうか。




あらためて三人それぞれに聞いてみたいものです。




一つ、お弁当づくりでいい事がありました。




お弁当づくりが終わっても、朝晩の家族全員の分の食事づくりというものは今でも変わらず続いています。




人に「美味しい」と言ってもらえる事に喜びを覚えたのかもしれません。




私の仕事もそうですが、人に喜んでもらう事が自分自身にとっても一番の幸せです。それが家庭でもできていたならば最高の幸せであります。




自分ができる限りのうちは、この毎日のルーティンは続けていきたいと思っています。




この映画は実際にあったご家庭の事を基につくられているそうです。




私だけではないのだ、そんな優しい気持ちでこの映画を観られました。




みなさまにも是非オススメしたい映画であります。




きっと元気と勇気をもらえると思います。