松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



孤独とひとり

東京にいる長女からかかってくる電話は部屋で一人きりの時か話す相手がいなくて寂しい時と相場が決まっています。

私の家族は皆いつもガヤガヤとうるさい人たちばかりです、私も含めて。私が一番ガヤガヤとうるさいかもしれません。おそらく皆が口を揃えて言うでしょう。また和菓子屋という商売上、私たちもパートさんたちもせわしなく動き回っているため、落ち着いて一人でいる事があまりなかったのだと思います。

実際に私も娘と同じく、家を出ていた東京、京都での五年間はそのように感じていました。娘から電話がかかってくると毎度そのように感じた事を思い出すのです。

これは「孤独」ではなく「ひとり」なのです。

間違って使ってはいけない言葉でありますし、間違って認識してはいけない事でもあると思います。

先日、娘たちを連れて食事に出かけました。



娘たちと一緒にいる事が私にとってかけがえのない時間であります。娘たちにとっても父である私がどっしりとした揺るぎのない存在である事が安心して毎日を送る事ができる大事な要素の一つであるのは間違いなさそうです。

東京の長女にも電話で「孤独」と「ひとり」の違いを一生懸命伝えましたが、次女と三女にも同じように私の考えを聞いてもらいました。

家族、友人たち、松屋長春で働く皆。全ての人のおかげで「孤独」を味わう事なくいられるのだと感謝しながら生きましょう。

そんな事を今一度考え、娘たちと共有した日でした。

孤独って辛いし寂しい。

私に関わる人たち全てに心から寄り添って生きていきたいですし、自分も色んな方に寄りかかって生きていきたい。

「ひとり」は「孤独」とは全く意味合いが違います。たまにひとりになりたい時もあるでしょう。それは「孤独」とは違うのです。

そう娘たちに一生懸命話をしておきながら「ひとり」もそんなに好きではない私です。

私は性根奥底からの寂しがりやかもしれません。

夫婦を解消して久しくなりますが、「孤独」でなくて本当に良かったと思う今日この頃です。

不条理と懐かしさ

配達の途中で私の通っていた高校の近くを通りました。

今までも何度も近くを車で通っていましたが、なぜかこの日だけは現在の高校を久しぶりに見たくなりおよそ25年ぶりに正門に立った次第です。



私が高校生の頃と全く変わっていませんでした。

私が受験した時は一宮高校と一宮西高校が学校群として一つのグループになっており、この学校群を受験し実際に合格発表を見に行かなければどちらの高校へ行くのかがわからない仕組みになっていました。

私は一宮高校に入学する事を強く希望していたため、一宮西高校への入学が決定された時の失望感は今でも忘れないほどです。

合格したのに希望の学校へ入る事が叶わない不条理さに強い憤りを覚えたのは言うまでもありません。

しかし、入学してしばし経ちますとそれが嘘のように慣れてしまうものです。仲良しの友人がどんどん増え、それが私にとってかけがえのないものとなっていきました。

卒業してはや30年近くとなりますが、当時の同級生との付き合いもいまだに続いており、旧交を温める会もしばしば催されています。

先日、実際に正門に立ってみたのですが、不条理さばかりを感じていた自分が嘘だったかのように懐かしさだけが私の中でいっぱいになりました。

今まで自分が通ってきた道を久しぶりに振り返るのも悪くないものです。

私にとっても友人たちにとっても一宮高校生ではなく一宮西高校生で良かったのだと納得する瞬間でもありました。

「せっぺい」のおはなし

梅の花を模した羽二重餅製の生菓子をお正月前後から毎日お店に並べています。



基本的に餅の生地はとても線が出にくいものです。

そのような理由からあまり線を出すようなものは作らないようにしていますが、12月,1月のベニサザンカやこの梅の羽二重餅は季節ものでどうしてもつくらなければなりません。

写真を見られていかがでしょうか。

線ははっきりと出ませんが、コロッとした梅の雰囲気が出ていてこれもいいものであると私は思っているのですがどうでしょう?

さて、表題のせっぺい。これは雪平(せっぺい)と読みます。鍋の雪平鍋(ゆきひらなべ)とは漢字こそ同じであれど、読み方が違うんです。

雪平(せっぺい)とは?

ご説明しますと餅の生地に白あんを入れ、仕上げたものです。

こうする事によって餅の生地に線を出しやすくするのです。私は30年近く前に作ったことがありますが、現在は使いません。

この雪平(せっぺい)のメリットは先ほどお話しました線の出しやすさや成形のしやすさ。これに尽きます。そしてデメリットは餅のふわふわ感が損なわれる事。この一つであります。

不味くなるわけではありませんが、こうしたデメリットによって普段のものと食感や触感が違ってきてしまいます。

そんな理由で手がけないのです。

雪平(せっぺい)のお話。

ご存知でない方が多かったのではないでしょうか。このような事を知識として持たれながら和菓子に触れ合っていただきますと、より楽しめるのではないかと考えています。

それでは今週もお付き合いよろしくお願いいたします。