松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



日々雑感

私の覚えではこの南部鉄器は松屋長春三代目。

父が現役二代目なので、私が無事に店主を受ける日がくるならば私もこの南部鉄器と同じ三代目となります。



周りには十二支が打ち込まれています。

素晴らしい造形美にいつもうっとりさせられます。

昔から伝わるものには、この南部鉄器のように現在も全く古くさくなく、逆にスタイリッシュに映る事が少なくなりません。

またこの南部鉄器はとても重いですが、その重厚感たっぷりの風情も使い手たちを虜にする要素の一つであると思います。

そして特筆すべきは鉄器故の効能です。これでお湯を沸かすと鉄分が染み出して自然に鉄を摂取できるのも有難い要素であります。

「レトロでクラシック」

私はそんな物たちにとても魅力を感じます。

忘れ去られていくものももちろんありましょうが、こうして後世まで愛されていくものはやはり便利な世の中にあっても必要とされ続けていくのでしょう。

松屋長春もこの南部鉄器のようにずっとお客様から必要だと言っていただけるような存在でありたいです。

あと数年で松屋長春は90歳を迎えます。

安心感のある和菓子づくりを心がけて本日も営業いたします。

本日も笑顔でお会いしましょう。

命の確認

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関ははそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

高村光太郎の作品「智恵子抄」の中の「レモン哀歌」です。

何度読んでも私の心を強く打つ私のお気に入りの詩です。

生と死をこれほどまでにくっきりと対照的に表現したものはこの詩以外には私は何も浮かびません。

命を象徴するものとして詩中にレモンを中心に置くことによって、より生の喜びや幸せを際立たせているように感じさせます。

レモンはそれほど神聖なものとして、命の確認をするものとして、爽やかで清らかなものとして高村光太郎は捉えていたのでしょう。

なにものにも代え難い香気と酸味がレモンが愛される一番の理由だと思います。

先日よりレモンを使った和菓子を立て続けにご紹介してまいりました。

今回が最後のご紹介となりそうです。



レモン羊羹



仕上がりました。



レモン羹

そして



星の光と合わせてお店に並んでおります。

神聖なるレモン、高貴なるレモン。

レモンそのものの優しさがダイレクトに伝わる和菓子たちに仕上がっていると思います。

トパアズ色の香気眩しく

昨日に引き続きレモンをたっぷり使った和菓子のご紹介です。



レモン羹と淡雪のマッチングがガッチリと決まっていると思います。

写真でも確認できるかもしれませんが、淡雪との境目にレモンの皮を忍ばせてあります。

この食感がいいアクセントとなり、爽やかな香りと味わいをもう一つ高みへと昇華させているような気がしています。

形こそ三角ですが、味わいは角を取り除きまあるく仕上げました。

トパアズ色の香気が眩しい美しい透明菓子です。

冷蔵庫でしっかり、じっくりと冷やしてから冷たいうちにお召し上がり下さい。