松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



春の香り

春には春の、夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の香りというものがあります。

嗅覚を働かせて大きく息を吸ってみると、その季節を存分に感じることができます。

それぞれの季節にはその季節にしかない、頭の中に私たちのDNAの中に、しっかりと組み込まれた匂いという記憶があるのです。

想像してみましょう。

夏は海。海のなんとも言えない心安らぐ匂いがあります。カブトムシやクワガタの樹液のような甘酸っぱい匂いも、西瓜の青々としたみずみずしい匂いもあります。カブトムシやクワガタなんて随分長く手に取った事がありませんが、その匂いの記憶が今でも鮮明に浮かび上がります。また、同時に少年の頃の自分を思い出すヒントともなるのです。

秋は枯葉が覆う黄金の絨毯の上で嗅いだ森の少し澄んだ匂いが私はお好き。蒸し栗の匂いも松茸の匂いも食欲をそそる匂いであります。

枕草子のように冬は早朝がよろしいようで、とても寒い朝には澄み切った空気が心まで綺麗にしてくれます。匂いが無いようですがこの鼻から吸う空気を鮮明に覚えているのも、やはり嗅覚がそうさせていることと考えています。

春はどうでしょう。菜花の形容しがたい独特の匂いが好きですし、つくしの佃煮のほろ苦く優しい甘さのあの香りも見逃せないものがあります。

和菓子の世界では一年で香りが一番素晴らしいのは春ではないでしょうか。

よもぎ、櫻葉。どちらも他の季節では味わう事ができない春だけの匂い、香りであります。

それぞれの季節にマッチした匂い、香り。



旬のものとはこういったものの事を言うのです。