松屋長春の和菓子便り

尾張稲沢の和菓子店、松屋長春の毎日を皆様にお届けします。 末長くお付き合いをよろしくお願いいたします。



にしきあき

にしきあきと漢字で書いて錦秋(きんしゅう)と言います。

平仮名で書くとスター、にしきのあきらみたいになってしまいますよね。若い方は錦野旦さんの事はご存知ないと思いますので、このあたりでこの話は終わりといたします。

錦秋とは、錦の織物のように様々な色合いで秋の木々が色付くことを言います。

では、錦とはなんでしょうか。

色々な色糸で地色と文様を織り出した織物のことを錦と言うのです。簡単に言いますと、とても色鮮やかな織物の事です。

秋の色合いの代表格は朱色と山吹色。あえてこの色の名前にしたのは赤色ではなく、少し黄色を含んだ朱色が当てはまると感じますし、少し紅を含ませて着色する山吹色が適当であると考えているからであります。

これらの色に緑色を合わせますと、初期の錦秋の三大色となります。そして秋が深まっていくに従い、朱色と山吹色のみの配色と続いていくのです。

同じ紅を基調としても、春と秋では全く着色法も違いますし、受ける印象も大きく違います。

着色は和菓子職人の感性や好みが如実に現れるものです。それが、お店それぞれの特徴ともなっているのです。

ここが私たちの感性や腕の見せどころではないかと思っておりますし、とても楽しく面白い作業の一つでもあります。

前置きが長くなりましたが、二色でシンプルに色付けした「錦秋」がお店に並びました。



朱色と山吹色に、私の思った通りに着色できました。

ここで、一つ私は嘘をつきました。

実は山吹色に見えるものは紅を刺さず黄色だけで着色しました。

理由は横の朱色が黄色にいい影響を及ぼしてくれるからです。

視覚の妙と言いますか、これでちょうどいいバランスに仕上がっているのです。

黄色の部分をもし、山吹色にしてしまうならば見た目が似通った色合いになってしまい、ぼやけてしまうとの考えからこうした次第です。

付け加えますと、これは私だけの感性であって他の和菓子職人さんたちとはまた違った考えかもしれません。

どこにも正解はなく、受け手の人々にどう伝わるかが肝心なのではないでしょうか。

ああ、着色って底なし沼のように先が深い。

そして着色への興味は尽きることがありません。

本当に面白くて楽しい。